この記事では、AIを導入する際の手順と成功に導くためのプロセス、失敗しないために押さえておきたい注意点を解説します。
まずは、そもそもなぜAIを導入する企業が増えているのか、AIを導入することで得られるメリット・効果を解説します。
AIを導入すると、大きく次の効果が期待できます。
1. 労働力不足の解消
2. コストの削減
3. 生産性の向上
4. 顧客満足度の向上
5. 従業員満足度の向上
6. 安全性の向上
7. コミュニケーションの向上
8. 生活利便性の向上
AIを導入すると、単純作業・定型業務に労働力を割く必要がなくなり、労働負担が軽減し労働力不足解消効果が期待できます。
人が行っている作業をAIに置き換えることで、人件費の削減につながります。さらに、ビッグデータをもとに機械学習を行うことによって、注ぐリソースも最適化します。
人の手によるミスが発生する現場をAIに任せることで、ヒューマンエラーを防ぎ全体の生産性を向上します。
ビッグデータに基づくAI分析は、サービスの質を向上させます。また問い合わせ対応に部分的にAIチャットボットなどを用いることで、頻出の問い合わせには待ち時間なく迅速に対応し、一方複雑な質問には人が対応するというきめ細かいサービスが実現します。
AIの導入によって蓄積・活用できるデータは顧客に関わるものばかりではなく、従業員満足度も向上させます。退屈な作業、やりがいのない作業をAIに任せ、よりクリエイティブな作業へ人材を活用できます。
工場など生産の現場にAIを導入すれば、危険作業を撤廃して人的被害を最小限に留めることができます。
AIチャットボットやカウンセリングAIが活躍する一方で、AIでは対応できないことも明確になります。すると人によるカスタマーサポートやカウンセリングの価値も向上します。
あらゆる業務がAIによる自動化すると、それまでは時間を制限しなければならなかったサービスも24時間休みなく提供できるようになります。
それぞれのメリットや事例についてより詳細に確認したい方は、下記記事も合わせてご覧ください。
AI導入が適している業務・分野の一例は次の通りです。
・故障予測・定点観測
・入退場管理
・農業
・需要予測
・問い合わせ対応・受付業務
・倉庫業務
・接客業務
・検査業務
・人事業務
・営業
・マーケティング
なお上記は一例であり、今後ますますAIによる変革は進むと考えられます。
実際のAI導入事例について紹介します。
スマートフォン・タブレットなどのモバイル端末を提供することで知られるHUAWEIは、中国の160万Kmにおよぶ高圧電線と400万本におよぶ鉄塔を、エッジAIにより監視・点検する取り組みに着手しています。
発表によれば、人手で20日間、ドローンで4日間かかっていた点検業務を、わずか2時間まで削減できたとのことです。
参考:
日本航空(JAL)は、フラップのセンサーに故障検知AIを導入しました。
離着陸時に伸展するフラップは、左右同時に動く必要があり、左右のセンサーの値に差異が生じると動作が停止してしまいます。
そこで、フラップを伸展する際の左右間でのセンサー値のズレを分析したところ、センサーが近々故障することを示すサインとして機能することを発見したとのことです。
参考:
日本電気(NEC)は、自社が持つ精度の高い顔認証技術を活用し、ウォークスルー顔認証を実現しています。
従来のICカードによる個人認証と異なり、ICカードの紛失・貸与による侵入といったリスクを防止。さらに指紋認証などのアクションを追加する必要もないため、セキュリティレベルを引き上げつつ人の流れを妨げません。
参考:
トヨタ、JapanTaxi、KDDI、アクセンチュアの4社は、共同してAIを活用した配車支援システムを導入しました。試験導入では、導入前と比べ平均売上が20.4%向上したとのことです。
なお、配車AIを導入するメリットは売上の向上だけではなく、若手ドライバーの業務をAIが支援することで、定着率や志望者数の増加といった効果も期待できます。
参考:
トヨタ、JapanTaxi、KDDI、アクセンチュアの4社、人工知能を活用したタクシーの「配車支援システム」の試験導入を開始 -タクシー業界の変革を目指すサービスの開発を加速-|JapanTaxi
総務省の資料によれば、静岡県焼津市、福島県会津若松市、岡山県和気町では、行政案内に対してAIを活用したチャットボットサービスを導入することで、休日・夜間問わず、市民からの問い合わせにタイムリーに対応できるようにしたとのことです。
そのほか、東京都港区や神奈川県綾瀬市では、自動翻訳システムを組み込んだチャットサービスを提供することで、外国語話者住民からの問い合わせ対応を可能にしました。
参考:
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、2018年にダイフク社と共同して倉庫業務にAIを導入・自動化することで、約100人いた従業員を10人まで省人化することに成功しています。
取り組みの中で自動化した業務は具体的に次の通りです。
1. 商品の積み下ろしの自動化
2. RFIDによる検品の自動化
3. 保管スペースを天井まで広げ保管効率のアップ
4. 商品の入出庫の自動化
5. ピッキング作業の最適化
6. 配送箱の作成を自動化
7. 荷物量に応じた配送箱容積の最適化
8. 配送仕分けの自動化
9. 商品コンテナ片付けの自動化
参考:
サプライチェーン改革実現に向け、戦略的グローバルパートナーシップを拡大 - ダイフクに加え、MUJIN、Exotec Solutionsとパートナーシップを本日締結|ファーストリテイリングIRニュース
ドイツの自動車メーカー・アウディは、プレス工場における品質検査に自社開発のAIを導入しました。
数百万枚に及ぶテスト画像を使いAIをトレーニングすることで、板金に生じた微細なクラックのAIによる検出を実現しました。
参考:
Audi optimizes quality inspections in the press shop with artificial intelligence|Audi MediaCenter
アメリカの大手IT企業であるIBMでは、自社のAI「IBM Watson」を従業員体験向上のためにフル活用。スキル・職務経歴・キャリア志向といったデータに基づき最適化された学習機会をマッチングします。
さらに従業員や求職者の問い合わせにもAIチャットボットが対応。求職者用の対話AIチャットボットを導入したところ、検索から応募へ進む割合が12%から36%まで向上したとのことです。
参考:
IBM Watson(日本語版)を採用したソフトバンク社では、エントリーシートの評価にAIを導入し、工数を従来比75%削減しました。
参考:
日本生命保険では、営業職員の業務効率化のため、営業トークをAIで自動的に評価するアプリを開発。同アプリを搭載したスマートフォン5万台を、営業職員向けに導入しました。
同機能は「ロープレAI」と呼ばれ、商談を想定したやり取りの反復練習をAIによってサポートするものです。
営業職員が商談の様子をスマートフォンのカメラで撮影すると、その内容を表情・ジェスチャー・トークの速度・明瞭さなどにもとづいて評価。評価後は不十分だった点についての指導が入るため、個人の研修でも一定のスキル向上が見込めます。
参考:
実際に業務にAIを導入する際のプロセスは次の通りです。
1. 課題の整理
2. 実現可能性の見極め
3. 導入範囲の決定
4. 学習データの準備
5. 導入するAIの決定
6. AIの試験運用および評価
7. AIの本格導入
AIの導入により解決したい課題を整理します。この段階では、AIの活用法にとらわれず、自社が抱える根本的な課題を特定することが大切です。
自社の課題を整理・特定したところで、その課題がAIによって解決可能なものであるかを見極めます。具体的には、類似の事例がすでに存在するかどうかを確認することから始めると良いでしょう。
課題を解決するために、どの業務範囲にAIを導入するのかを検討します。検討に際して重要視したいポイントは、費用対効果が釣り合うかどうかです。
導入による恩恵があまり見込まれない業務にAIを適用してしまうと、導入コストのわりに思ったようなコストが得られない、といった結果になりかねません。
解決したい課題によっては、PoC(Proof of Concept:概念実証)を繰り返しながら適用範囲を探る必要があります。
解決したい課題が決まり、導入する範囲を特定できたら、続いて学習データの準備です。
AIを活用するうえで必要となるデータを収集し、調整・整理・最適化といったデータクレンジング処理を施します。
解決したい課題に対して、どのような技術に特化したAIソフトウェアの導入が適切かを検討します。工場における検品を自動化するAIを導入するなら、画像認識に特化したAIソフトウェアを導入する、といった具合です。
準備した学習データをもとにAIの試験運用を行います。運用して得られた結果をもとにAIを評価し、必要の応じて追加の学習データを用意するほか、導入範囲の見直しなどを行います。
試験運用と評価を経て、いよいよAIを必要とする現場に導入して運用を開始します。AIの精度はデータ量に応じて高まるため、新たなデータもどんどん学習に活用し、精度改善の好循環を途切れさせない運用が大切です。
AIを導入する際には次の点に注意しましょう。
・課題の特定を焦らない
・相応のコストがかかることを見込んでおく
・AI導入に固執しない
課題の整理および特定には十分な時間をかけましょう。たとえば「生産性を高めるために検品AIを導入しよう」と考えても、実際に現場で発生している問題がそのソリューションで解消されるとは限りません。
課題を整理する段階から現場の声をきちんと吸い上げて、何が解決されればどのような効果が得られるのかを明確にしておきましょう。
AIを導入するメリットは多大ですが、相応のコストがかかることも確かです。
特に見誤りがちなのが、概念実証や学習データの準備にかかる人手や時間。解決したい課題によっては、AIの学習に大量のデータが必要になります。また、条件がそろっていなければ学習に活用できないこともあり、場合によっては業務フローそのものを変える必要に迫られます。
AIの導入に固執しすぎないことも重要です。解決したい課題によっては、AIが適切なソリューションとは限りません。
また、たとえAI導入が最終的に大きな利益をもたらすとしても、数ヶ月~数年といった短期的なスパンで見ると費用対効果が見合わない可能性もあります。
AIはあくまで課題を解決する方法のひとつです。「AIを導入すること」にとらわれすぎず、課題解決に向けて柔軟に手段を選んでいきましょう。
マクロセンドは、AI活用の前段階として必要な、データ自動収集システム、データレイク・DWH基盤構築、セルフデータプレパレーションツールの提供等、各企業の状況・要望に合わせたデータ活用、DXを支援するサービスを行っております。興味のある方は、以下のサービス記事もご確認ください。
2021年1月18日