この記事では、近年注目を集めている「ミニアプリ」について解説します。スーパーアプリとの違い、ネイティブアプリと比較したメリット、国内外の活用事例などをまじえて、ミニアプリの開発を検討する際に押さえておきたいポイントを解説しますので、参考にしてください。
まずミニアプリやスーパーアプリの関係性や定義といった基本情報のほか、それらを取り巻くネイティブアプリ市場などについて広く解説します。 ミニアプリ(Mini App)とは、スーパーアプリを基盤として動作するアプリケーションの通称です。国内では「LINEミニアプリ」や「PayPayミニアプリ」、海外では中国の「WeChatミニプログラム」や同じく中国の「Alipayミニプログラム」などがあります。 ミニアプリの特徴は、「アプリを新たにインストールすることなくさまざまなサービスを利用できる」点です。ミニアプリの基盤となるスーパーアプリさえインストールしておけば、あらゆるサービスをシームレスに活用できるという仕組みにより、中国・テンセントのWeChatミニプログラムを皮切りに、ミニアプリの活躍の場は広がり続けています。 2017年にWeChatミニプログラムが提供を開始してから、2019年1月時点で累計ユーザー数は6億人を超え、DAU(Daily Active User)も2.3億人を超えました。またWeChat上で動作するミニプログラムの数も、サービス開始からおよそ1年が経過した2018年1月時点ですでに58万に達していたのが、1年後の2019年始には倍の100万にまで急増。 さらに、委託開発サービス企業「即速応用」の調査によると、19年末の時点でWeChatミニプログラムの数は236万以上、続くAliPayミニプログラムも20万以上にのぼるとのことです。 参考: 小程序2019年中报告:微信小程序日活预计超3.5亿,小程序生态边界正不断扩张 スーパーアプリ(Super App)は、「LINE」や「WeChat」のように、ミニアプリを提供するプラットフォームとなるアプリケーションの通称です。 スーパーアプリを使う事で、ミニアプリで提供されるさまざまなサービスをユーザーが意識する事なくシームレスに利用できるようになります。スーパーアプリとミニアプリが注目される理由のひとつが、シームレスに利用できるという点です。 一方で、スーパーアプリは一般的なネイティブアプリ(スマホアプリ)と同じくアプリストアでダウンロードする必要がある点が、ミニアプリとは大きく異なります。 なお前述のWeChatミニプログラムの成功を受けて、アリババ、バイドゥ、シンガポールの配車アプリ大手のGrab、国内のLINE、PayPayなどがスーパーアプリとしてのサービス提供を開始しています。 ミニアプリとスーパーアプリの仕組みが世界的に注目される背景として、ネイティブアプリ(スマホアプリ)市場がすでに飽和していることや、アプリが増えすぎたことによる弊害が顕在化し始めたことなども挙げられます。 集客チャネルのひとつとして、ネイティブアプリ(スマホアプリ)の活用を検討する企業は少なくないでしょう。しかし、世界には数多くのアプリが存在しており、すでにネイティブアプリ市場は飽和状態にあると言えます。 アプリ市場が飽和状態にあることは、主要なアプリプラットフォーム上のアプリ総数の推移からも推察できます。 2021年時点、AppleのApp Storeには約200万のアプリがあることが公式に示されていますが、2017年時点で約210万のアプリがあることを示す調査結果も報告されていることから、少なくともApp Storeにおけるアプリ数はほぼ横ばいで推移していることがうかがえます。 参考: ネイティブアプリ市場が飽和しているいま、集客のためにネイティブアプリを開発したとしても、そもそもユーザーに見つからない可能性も大いにあります。 アプリの存在をユーザーに周知・認知してもらうためにはある程度の広告費をかける必要があり、またアプリの開発・メンテナンスにもコストがかかりますので、ユーザーに利用されるアプリを提供するまでには相応のコストがかかることになります。 こうした状況から、ユーザーに利用されるネイティブアプリを提供するためのハードルはかなり高いと言えるでしょう。 ネイティブアプリを継続的に提供するためには、ユーザーにとって有用なサービスを提供するだけでなく、プラットフォームの要件に応え続ける必要があります。 たとえばAppleのApp Storeには、次の記述があります。 更新がなく、最新のOSで機能しないことを理由に、230万以上のアプリを削除しました。App Store|Apple プラットフォーマーによる厳正な審査は、ユーザー目線では強い信頼感・安心感に繋がります。しかし一方で、アプリを開発しサービスを提供する側にとっては、相当の負担を強いられることになります。 ただでさえ「利用されないリスク」を抱えるネイティブアプリ開発において、最初のハードルをクリアしてもその後継続的にサービスが利用されるとは限らない点は、多くの企業にとってネックとなるでしょう。 ミニアプリとスーパーアプリが注目される最大の理由は、顧客体験にもたらす変化です。 ミニアプリが浸透することにより、具体的にどのような顧客体験が実現しうるのか、飲食店を例に考えてみましょう。 決済に必要な情報は基本的にスーパーアプリで管理されているため、ミニアプリを利用する際に都度情報を登録したり入力したりする必要がありません。そのためユーザーは、飲食店のテーブルなどに掲示されたQRコードを介して注文や決済ができます。 実際に、WeChatミニプログラムを筆頭にミニアプリが浸透した中国では、大型飲食店の中にはすでにレジが存在しない店舗もあると言います。 ユーザーはスーパーアプリさえインストールしてあれば、複数のアプリを管理することなくさまざまなサービスを享受することができるのです。 ミニアプリ・スーパーアプリが注目される背景や理由を踏まえて、ミニアプリ・スーパーアプリをネイティブアプリと比較したメリットについてまとめます。 ミニアプリをネイティブアプリと比較した主なメリットは、次の通りです。 ・シームレスな起動 ・開発/宣伝コストの抑制 ・スーパーアプリとの機能連携 ミニアプリはダウンロード不要で利用できるので、必要なときに必要なサービスをシームレスに提供することが可能になります。 ネイティブアプリ開発においては、まずプラットフォームからダウンロードされる必要があったのに対して、ミニアプリではダウンロードを促す必要がありません。 ダウンロードが不要であるという1点だけを見ても、ネイティブアプリと比べて利用までのハードルは低いと言えるでしょう。 ミニアプリはネイティブアプリのように事前のダウンロードを必要としないため、広告宣伝などにかかるコストを抑制できます。 またミニアプリ開発では、スーパーアプリの提供するAPIなどを活用できるうえに、iOSやAndroidといったOSごとの開発も不要であることから、開発コストの抑制にも繋がります。 ミニアプリはスーパーアプリと連携することで、さまざまな機能をユーザーにとって使いやすい形で提供することができます。 以下は、スーパーアプリと連携して提供できる機能の一部です。 ・ユーザー認証 ・フレンドとの情報共有 ・決済 ・予約 ・通知 特に、ユーザーの認証情報や決済情報をスーパーアプリと連携するメリットは非常に大きく、先述した飲食店における顧客体験の変化などは、スーパーアプリとミニアプリの連携によってもたらされているところが大きいと言えます。 ユーザーはスーパーアプリに必要な情報を登録しておけば、決済のたびにアプリを使い分ける必要がないので、ユーザーにとって必要な機能・サービスを提供して導線を設計できれば、自然と継続的な利用の促進にも繋がると考えられます。 ここからは、具体的なミニアプリの活用事例をご紹介します。 WeChatのミニプログラムが爆発的に増加するきっかけとなったのが、ゲームアプリである「跳一跳」です。 キャラクターを操作し、箱型の台座から台座へとジャンプし続けるというシンプルなゲーム性ながら、スーパーアプリ内のフレンドと競い合うことのできるゲームとなっており、拡散性の高さも相まって2018年時点で累計ユーザー数は3億人、最盛期のDAU(Daily Active User)は1.7億人に達しました。 マクドナルド、NIKEといった世界的な企業の広告がデザインされた台座が期間限定で登場したこともあり、ミニアプリ(WeChatミニプログラム)におけるゲームアプリの商業的価値を最初に示した作品と言えるでしょう。 参考: QuestMobile微信游戏小程序报告:爆款不断、转化效应已经显现……|QUESTMOBILE 富士急株式会社は、WeChatミニプログラムを開発し日本で初めてWeChatオンラインチケットを導入しました。WeChatオンラインチケットを利用することで、チケットブースに並ばずにテーマパークなどへの入場が可能になります。 また富士急ハイランドではWeChat Payの全面的な導入も進んでいることから、外国人入園者の多くが中国人観光客が占める状況とのことです。 参考: 日本初「WeChat オンラインチケット」富士急ハイランドで4/20(金)より導入|PR TIMES 阪急阪神百貨店は、中国国外で初めて「WeChatペイスマート旗艦百貨店」として認定されるほど、WeChatミニプログラムの活用に注力しています。 阪急阪神百貨店では、WeChatミニプログラムを利用して実際に次のサービスが提供されています。 ・化粧品予約受取サービス ・レストランオーダー ・店内案内 ・電子会員化 参考: 阪急阪神百貨店が中国国外で初めて「ウィーチャットペイスマート旗艦百貨店」に認定されました。|PR TIMES ミニプログラムとは?利用方法やメリット、企業の事例を紹介|インタセクトサービスサイト カネボウ化粧品では、2020年10月からLINEミニアプリの運用を開始しました。ネイティブアプリではなくLINEミニアプリを選択した理由について、カネボウ化粧品を管轄する花王株式会社の中根志功⽒は次のように語っています。 今回開発されたLINEミニアプリには、既存のネイティブアプリの一部機能を引き継ぐ形で、「購入履歴」「店頭肌測定結果」「マイストア情報」「会員証」といった機能が実装されています。 導入から6ヶ月経過時点で、メッセージ開封率が従来のネイティブアプリ運用時の2倍に伸長したとのことです。 参考: メッセージ開封率がネイティブアプリ運用時の2倍に伸長! カネボウ化粧品のLINEミニアプリ活用|LINE for Business 東京・吉祥寺を中⼼に地域密着型のヘアサロンを展開する「1001mille」では、LINE上でサロンの予約ができるLINEミニアプリを導入しています。 LINEミニアプリの導入と並行してLINE公式アカウントを活用し、さらにLINE上での予約システム周知のため、ユーザーへの案内を接客時のオペレーションに追加しました。 LINEを使った予約システムの案内を接客時のオペレーションに追加するにあたって、代表の田中氏は次のように語ります。 LINEミニアプリを導入した成果は上々で、導入からわずか3ヶ月でLINEミニアプリ経由の予約数が外部予約サイト経由の予約数を上回りました。 さらに店舗で実施したアンケート結果によれば、LINEミニアプリを使った予約を体験したユーザーの9割以上が「今後もLINEミニアプリを継続して使いたい」と回答。また、電話予約の割合減少によりサロンスタッフの負担が減ることで、接客に専念できるなどといった効果も生まれているといいます。 参考: 顧客の約5割が予約サイトを経由せず再来!LINEミニアプリを活用した美容室のリピート促進|LINE for Business LINEミニアプリ 先⾏事例のご紹介|LINE for Business(PDF) アパレルブランドおよび生活雑貨ブランドなどを展開する株式会社パルは、新規会員数の伸び悩んでいた自社アプリ「PAL CLOSET」の新規ユーザー獲得を目的に、LINEミニアプリを導入しています。 本事例では、LINEミニアプリの「ダウンロード不要で利用できる点」を活かし、実店舗における会員証の発行を起点としてユーザーの拡大を目指しました。ユーザーは、店頭POPで掲出された登録用QRコードを読み込み認証することにより、わずか5秒で会員証の発行から掲示までが完了します。 店頭における案内オペレーションの最適化施策などもあいまって、自社アプリPAL CLOSETの新規会員数はLINEミニアプリリリース前に比べて倍増したとのことです。 参考: LINEミニアプリで店舗顧客を囲い込み!新規会員数とEC売上をアップさせたパルのLINE活用|LINE for Business LINEミニアプリ 先⾏事例のご紹介|LINE for Business(PDF) 東急株式会社では、グループ内におけるDX推進に、LINEミニアプリやLINE公式アカウントを活用しています。 たとえば、withコロナにおける渋谷のまちづくりに貢献するサービス基盤「どこ渋」では、LINEミニアプリを活用したモバイルオーダーサービスを提供。LINE公式アカウントを友だち追加することで、渋谷ストリームや渋谷ヒカリエに出店する飲食店の商品を、事前注文したりテーブルオーダーしたりすることが可能です。 モバイルオーダーの導入で接客接点が減ったことにより、ユーザーの利便性向上、業務効率と顧客単価の向上につながっているほか、今後テナントに新規出店する店舗を支援できる分析データが蓄積されたといいます。 なお本事例では、LINEミニアプリによるモバイルオーダー導入時点で、協力店舗のほとんどがLINEミニアプリを認知していなかったものの、LINE上で利用できる機能であることが伝わると、前向きに導入してもらうことができたとのことです。 参考: これまでのビジネスモデルをLINEで変革する、東急のDX戦略とは|LINE for Business PayPayでは、ヘルスケアテクノロジーズの販売するPCR検査キットを購入できるミニアプリ「PCR検査キット」の提供を開始しました。 PayPayアプリ内の「PCR検査キット」アイコンより、ヘルスケアテクノロジーズのWebサイトを経由してPCR検査キットを購入することができます。 購入したPCR検査キットが自宅に届いたあとは、ヘルスケアテクノロジーズが提供するヘルスケアアプリ「HELPO」で検査日を登録し、手順に沿って検体の採取後、検査センターへ返送します。 PCR検査結果は、同アプリ内で確認することが可能です。 参考: 「PayPay」のミニアプリからヘルスケアテクノロジーズが販売するPCR検査キットの購入が可能に – プレスリリース|PayPay PayPay証券(旧One Tap BUY)は、PayPayの利用などによって得られるPayPayボーナスをもとに、疑似的な運用が体験できるサービスを提供しています。 PayPayユーザーであれば、新たに証券口座などを開設することなく利用することができます。 なお運用されたポイントは、再度PayPayボーナスとして交換する(引き出す)ことができ、PayPay加盟店などでの利用が可能です。 参考: PayPayボーナスを利用した擬似運用体験ができるサービスを One Tap BUYが提供開始 – プレスリリース|PayPay INFORICHは、モバイルバッテリーシェアリングサービス「ChargeSPOT」が利用できるPayPayミニアプリを提供しています。 PayPayユーザーは、PayPayアプリ内の「スマホ充電」アイコンから、ChargeSPOTの検索、貸出手続き、支払いが可能です。 参考: 「PayPay」のミニアプリに、モバイルバッテリーシェアリング「ChargeSPOT」が登場 – プレスリリース|PayPay これまでに弊社が蓄積した知見・技術をもとに、LINE APIをフル活用して、お客様に寄り添ったご提案をさせていただきます。LINE ミニアプリの開発にご興味のある方は、下記記事や問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
2021年8月19日