この記事では、動的価格設定・変動料金制・価格変動制などとも呼ばれるダイナミックプライシングについて、基本的な情報から必要性、活用事例、注意点までを解説します。企業利益を最大化するための手段にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
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まず、ダイナミックプライシングという言葉の意味や必要性について解説します。 ダイナミックプライシングとは、同一の商品やサービスの価格を、需要と供給の状況に合わせて変動させる価格戦略のことです。動的価格設定、変動料金制とも呼ばれ、数量が限られている商品やサービスに用いられるのが一般的です。 身近なものでは、スーパーやコンビニなどで売れ残った商品を割引するタイムセールもダイナミックプライシングの一種と言えます。また、ホテルの宿泊料を空室率に応じて変動させたり、テーマパークの入場料を季節に応じて変動させたりする例もあります。 近年では、電車やタクシーといった交通機関の利用料をダイナミックプライシングにしようという声もあり、注目が集まっています。 ダイナミックプライシングが必要とされる理由は、企業利益を最大化するためです。元来、商品やサービスの価格は需要と供給のバランスで決定されますが、現代は基本的に供給過多であることから、ほとんどの商品やサービスの価格決定は需要量に依存しています。そのため、需要量の変動に応じて臨機応変に値付けする必要があるのです。 ダイナミックプライシングを採用せず、常に一定の料金で商品やサービスを提供する場合、需要が過剰になれば提供が追い付かず在庫不足で利益を取りこぼす可能性があり、需要が過少になれば過剰在庫で保管・管理コストがかかる可能性があります。 それに対し、ダイナミックプライシングを採用した場合、需要に応じて価格を変動させることができ、利益を取りこぼすリスクやコストが発生するリスクを抑制できるのです。 ダイナミックプライシングの必要性は、いわば乗り物におけるブレーキのようなものです。たとえば30秒に一度しかブレーキを使えない自動車はすぐに事故を起こしてしまいますし、一方でアクセルを踏むタイミングに制限のある自動車は速度が出せません。両方をいつでも自由に使えるからこそ、最適な速度で目的地に辿りつくことができるのです。 ダイナミックプライシング自体は古くからある手法で、たとえば株価のように値動きが激しい商品には当初から導入されていました。それが現在改めて注目されている理由のひとつが、AIやビッグデータの存在です。 ダイナミックプライシングは、適切に実施すれば企業利益の最大化につながりますが、需要量を予想できるだけのデータがなければあまり効果が見込めません。また一方で、ダイナミックプライシングを実施するために業務量が増えてしまい、かえってコストが高くつく可能性もあるでしょう。 そのため従来は、繁忙期と閑散期で需要の差が想定しやすい業種など、限られたケースで利用されるのが一般的でした。しかし現在は、AIとビッグデータを活用することにより、リアルタイムで適切な値付けが現実的になったことから、従来より幅広い業種で注目されるようになったのです。 ここからは、ダイナミックプライシングの具体的な活用事例を紹介します。 eコマースにおける世界的なリーディングカンパニーであるAmazonは、オンラインストアにおけるダイナミックプライシング活用の先駆者でもあります。 Amazonのアルゴリズムは、需要に応じて1日に何度も価格を変更する仕組みになっており、その回数は何百万回にも及ぶと言われています。2013年の時点でAmazonは1日250万回以上の価格調整を行っており、その年の売上は前年比27.2%の伸びを見せました。なかには、ユーザーが商品をカートに入れた後で価格が変動するケースもあると言います。 Amazonの価格決定アルゴリズムに影響を及ぼしている要素は主に、需要、顧客の購入意思、そして他の小売業者の価格などです。プロモーションの一環として価格を引き下げるのに加えて、同商品をAmazonより安く販売する小売業者があった場合、それに合わせて価格を引き下げます。 参考: Effective Dynamic Pricing Starts With the Customer|The Wall Street Journal Profitero Price Intelligence: Amazon makes more than 2.5 million daily price changes|Profitero Pressured by Amazon, retailers are experimenting with dynamic pricing|DIGIDAY How Online Shopping Makes Suckers of Us All|The Atlantic How Amazon uses “surge pricing,” just like Uber|CBS News Different Customers, Different Prices, Thanks To Big Data|Forbes Amazon.com Help: About Promotional Pricing|Amazon Help&Customer Service コンビニエンスストアを展開する株式会社ローソンは、電子タグ(RFID)を活用したダイナミックプライシングをはじめとする各種施策の実証実験を実施しました。 実験では、対象商品に電子タグを貼り付け、棚にあらかじめ設置したリーダーでそれらを読み取ることにより、消費期限の近い商品を特定します。対象商品の情報は、実験用LINEアカウントに登録した顧客へ通知され、購入すると後日LINEポイントが還元されます。 同社はダイナミックプライシングと合わせて、デジタルサイネージによるターゲティング広告、電子タグリーダー付きレジの設置などの実証実験も実施しました。 参考: <参考資料>電子タグを用いた情報共有システムの実験|ローソン公式サイト Jリーグに所属するサッカークラブである横浜F・マリノスでは、一部のチケットを除いてダイナミックプライシングを採用しています。 試合日程、席種、市況、天候、個人の嗜好などに関するビッグデータを分析することで、試合ごとの需要を予測し、需要に応じたチケット価格を自動的に設定します。そのため、販売状況によっては指定席と自由席の価格設定が逆転する場合もあります。 設定される価格は、過去の販売実績や販売期間中の販売実績をもとに、ダイナミックプラス株式会社の独自の価格算出技術を活用して行われているとのことです。 参考: 価格・席種 – 日産スタジアム | チケット情報|横浜F・マリノス パシフィック・リーグ所属の日本プロ野球球団である福岡ソフトバンクホークスも、福岡ヤフオク!ドーム(現「福岡PayPayドーム」)で開催されるオープン戦チケットにダイナミックプライシングを採用しています。1日複数回更新することで、よりリアルタイムで需要に応じた適正価格を提供することが可能です。 本件は、チケットの購入前に座席からの眺めを体感できる「360度3Dマップビュー」を採用している点も特徴的で、日本のプロスポーツ業界では初めての導入となりました。 参考: 福岡ソフトバンクホークス、ヤフーがリアルタイムで価格変動する「AIチケット」を2019年オープン戦より販売! – ニュース|ヤフー株式会社 「ヤフオクドーム」は「PayPayドーム」に–川邊社長が狙いを語る|CNET Japan AI活用の価格変動チケットに『360度3Dマップビュー』を導入し、 パーソル CS パ チケット販売!|福岡ソフトバンクホークス プロ野球やプロサッカーなど、スポーツ分野でのダイナミックプライシングの導入が進む中、エイベックス・エンタテインメントは音楽分野におけるダイナミックプライシングを導入しました。なお、エイベックス・エンタテイメントのプレスリリースによれば、この事例が国内アーティストのライブ・コンサートにおいて初採用とのことです。 ダイナミックプライシングの導入により、適正価格で販売できるだけでなく、高額転売抑止の効果も期待でき、顧客満足度向上に繋がることが予想されます。 参考: 国内アーティスト初採用!ダイナミックプライシングによる浜崎あゆみカウントダウンライヴ開催決定|エイベックス株式会社 民泊事業などを展開するAirbnbでは、価格を適正に調整する仕組みとして「スマートプライシング」を導入しています。スマートプライシングを使えば、需要の変動に合わせて自動的に値上げや値下げが行われるため、そのエリアにおける宿泊料相場などをオーナー自らが比較検討する必要がありません。 Airbnbのスマートプライシングでは、次のような要素を価格に反映しているとのことです。 ・チェックイン日までの残り時間 ・エリア全体の人気度(検索数) ・繁忙期や閑散期などの季節性 ・リスティングの人気度(ビュー数や予約数) ・リスティングの記載情報(アメニティの充実度など) ・予約履歴 ・レビュー履歴 なお、スマートプライシングはOFFにすることも可能で、スマートプライシングによって変動した料金を手動で変更することも可能です。またスマートプライシングでは、予約獲得率や利益を最大化するために料金の値上げや値下げに踏み切る場合がありますが、料金の下限や上限を事前に設定しておくことで一定の範囲内にとどめることができます。 参考: 中の人が語る、「スマートプライシング」のメカニズム|Airbnb スマートプライシングのON/OFFを切り替えるには?|Airbnb テーマパークを運営するユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、2019年からチケット料金にダイナミックプライシングを導入しています。この取り組みは社内では「変動価格制」と呼ばれており、現時点(※2021年7月時点)では2ヶ月先の価格を事前に決定する仕組みとなっています。今後はAIやITを活用することで、よりフレキシブルかつタイムリーに価格を変動させたいと言います。 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが変動価格制を導入した理由は、テーマパークとしての価値の追求と、繁閑差の平準化の2つでした。変動価格制導入以前は、顧客満足度の観点からアトラクションの待ち時間短縮に取り組む必要がある状況でしたが、変動価格制の導入により入場者数が平準化されたため待ち時間も短縮傾向にあり、結果的に満足度向上に繋がっているとのことです。 参考: ダイナミック・プライシング(変動価格制)を導入した理由と効果をユニバーサル・スタジオ・ジャパンの担当者に聞いてみた│平準化・分散化特集|やまとごころ.jp 東京ディズニーリゾートを展開する株式会社オリエンタルランドは、東京ディズニーランドおよび東京ディズニーシーの入園チケットについて、2021年3月20日の入園分から段階的に変動価格制を導入しています。 まず3月20日の入園分から導入された変動価格制では、1デーパスポートの料金が平日用8,200円、休日用8,700円(従来は8,200円で固定)となりました。さらに同年10月1日からよりパターンを増やした全4パターンでの変動価格制の提供を開始。もっとも安い時期で7,900円、もっとも高い時期で9,400円となります。 なお、東京と香港以外の海外パークではすでにダイナミックプライシングが導入されていました。 参考: 【ディズニー】チケット変動価格制を導入、最高で大人1デーが8,700円に | cinemacafe.net TDR、チケット新価格を発表 変動価格制の最高額は9400円で最大700円の値上がり(オリコン)|Yahoo!ニュース スーパーマーケットなどのディスカウント業態を中心に事業展開する株式会社トライアルカンパニーは、パナソニック株式会社と連携してスマートストア「トライアル Quick 大野城店」をオープンしました。 同店舗では、全商品に合計およそ1万2,000枚におよぶ電子プライスカードを導入することで、従来の割引セールやタイムセールなどと比してよりタイムリーなダイナミックプライシングを可能にしています。 ダイナミックプライシング以外にも、日本初となる下記3つのサービスをはじめ、AIによるIoTを体現している店舗と言えるでしょう。 ①AI冷蔵ショーケースの実装。得られたデータは、商品補充タイミングや顧客属性に応じた品揃え最適化、サイネージコンテンツの表示最適化などに活用されます。 ②夜間無人化。店舗入り口で専用アプリケーションのQRコードやプリペイドカードをかざして入店する仕組みとセルフレジの導入により、夜間無人化を実現しています。 ③キャッシュカードでチャージ出来るプリペイドカードチャージ機。J-Debitサービスを活用することにより、専用チャージ機で銀行口座から直接チャージが可能に。将来的にはスマートフォンのみでのチャージを目指しています。 参考: 3つの日本初!最新リテールAIを実装 トライアル新業態『Quick』、第一店舗目が福岡に誕生!「トライアル Quick 大野城店」2018年12月13日(木) 8時30分オープン|PR TIMES 駐車場予約アプリを運営するakippa株式会社は、蓄積した駐車場予約データをもとに、もともとECサイト向けダイナミックプライシングサービスであった「throough」を導入して、需要に応じた駐車料金を自動的に導き出すシステムの実証実験を実施しました。 同社では先行して、イベント会場などの混雑するエリア周辺の駐車場に対してダイナミックプライシングを導入し、1年ほどかけて効果の観測を行っており、10~20%ほどの売上増加が確認されているとのことです。 参考: akippaがAIを活用したダイナミックプライシング自動化の実証実験を開始 日光企画と協力|PR TIMES 思わず誰かに話したくなるakippaの裏側「ダイナミックプライシング」のお話。|akipedia ダイナミックプライシング受託開発|株式会社ダイナミックプライシングテクノロジー 小売のダイナミックプライシングのthroough(スルー)|株式会社ダイナミックプライシングテクノロジー 最後に、導入前に把握しておきたいダイナミックプライシングの注意点を解説します。 まず、ダイナミックプライシングがうまく機能するケースと、あまりうまく機能しないケースがある点に注意が必要です。ダイナミックプライシングがうまく機能するケースは、次のような場合です。 ・賞味期限のある商品 ・明確な市場価格のない商品(=相場に変動のある商品) まず賞味期限のある商品とは、ある一定の時期を過ぎると価値がなくなる(変化する)商品のことを指します。たとえば、食品・飛行機やイベントのチケット・宿泊施設のほか、季節性のあるアパレルなども当てはまります。 次に明確な市場価格のない商品とは、コモディティ化しておらず、その希少性から相場に変動のある商品のことを指します。たとえば、不動産・美術品・骨董品のほか、メルカリやYahoo!オークションといった中古販売市場で高値が付くものはこちらに当てはまる傾向があります。 上記のいずれかに当てはまるケースでは、ダイナミックプライシングがうまく機能しやすく、定額で販売した場合に比べて利益の取りこぼしや機会損失を防げる可能性が高くなるでしょう。 ダイナミックプライシングに向いているケースがある一方で、向いていないケースもあります。たとえば、すでに価格が安定しているコモディティ商品の価格を急に変動させた場合、利益最適化につながるどころか、顧客の反感を買い業績悪化につながりかねません。 また、Amazonのように競合がそれぞれダイナミックプライシングを導入して価格競争をすでに繰り広げている場合、そこへ巻き込まれることは避けたほうが無難です。ダイナミックプライシングは、需要量に対して適切な価格を算出するだけのデータがなければ、高い効果は期待できません。そのため、すでに大量のデータを保有している競合と真っ向から価格競争をするのは、あまり得策ではないのです。 まずはダイナミックプライシングに必要なデータを集め、信頼性のあるシステムを構築することが重要と言えるでしょう。 これまでに弊社が蓄積した知見・技術をもとに、ダイナミックプライシングの導入に欠かせないデータ取得・分析基盤の構築から、ダイナミックプライシングの活用方法まで、お客様に寄り添ったご提案をさせていただきます。 データ取得・分析基盤の構築にご興味のある方は、下記記事やお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
2021年12月6日