デジタルツインの具体的な用途や効果を知りたいという方へ向けて、この記事ではデジタルツインの分野別の活用事例・導入事例をご紹介します。 デジタルツインの概要や活用されるテクノロジーに加え、デジタルツインのメリット・デメリット、課題なども解説しますので、今後デジタルツインの導入を検討するうえで参考にしていただければ幸いです。 マクロセンドでは、デジタルツインの実装支援のお手伝いをしております。 デジタルツインを実現したいけれどどうやっていいかわからない、どの程度の費用がかかるのか知りたい、といった疑問をお持ちの方は、下記フォームよりお問い合わせください。
デジタルツイン(Digital Twin)とは、物理(フィジカル)空間を仮想(サイバー)空間で再現する概念、およびそれを実現する仕組みのことです。
例えば、工場や建物、車両といった現実の対象物のデータをIoTなどを活用したセンシング技術により収集し、クラウド上のサーバに送信してコンピュータ上に複製することで、物理空間とほとんど同一の挙動や状態を維持しながら仮想空間上でシミュレーションを行える環境が構築できます。スケールの大きなものでは、都市そのものをデジタルツインによって複製する事例もあります。
この概念は、現実と双子のように繋がったデジタル上のデータモデルを扱うことから「デジタルの双子」という意味でデジタルツインと呼ばれています。
デジタルツインの世界市場規模は急速に拡大しており、「2022年で69億ドル、2027年に735億ドル、市場の平均年成長率は60.6%になる」と予測するレポートもあります。
参考:
デジタルツインの世界市場:2027年に至る用途別、産業別予測|ResearchStation,LLC
デジタルツインにおいて活用されるテクノロジー
デジタルツインを実現するために活用されるテクノロジーには、以下のようなものがあります。近年、デジタルツインが注目されるようになった背景・要因として、これらの技術要素が目覚ましい進歩を遂げたことが挙げられます。
IoT(Internet Of Things)
総務省の「令和3年版 情報通信白書」によれば、2020年時点で全世界に253億台のIoT機器が存在するとされており、2023年には340億台までその数が増えると予測しています。
こうした膨大な数のIoTデバイスやセンサーは、デジタルツインにおいて、現実世界の物体やシステムから温度、圧力、振動、位置など様々なデータをリアルタイムで収集するために用いられます。デジタルツインを実現し、精度を向上させるうえで、不可欠なテクノロジーのひとつです。
参考:
クラウドコンピューティング
IoTデバイスによって収集・測定したデータは膨大な量になるため、それらのデータを安全かつ効率的に蓄積し、容易にアクセスできる状態で保管するために、クラウドコンピューティングが重要な役割を果たします。
クラウドコンピューティングはオンデマンドでリソースを提供するため、デジタルツインが必要とする処理能力やストレージを低コストでスケールアップ・ダウンすることが可能です。これにより、初期投資を抑えつつ、デジタルツインの導入や運用を効率的に行えます。
5G(第5世代移動通信システム)
高速・大容量の通信を可能とする5Gは、IoTデバイスからの大量のデータをリアルタイムでやり取りするために欠かせない技術です。
高速通信規格により、デジタルツインが現実世界と密接に連携することを可能とします。
3次元計測技術
3次元計測技術は、現実世界の物理的なオブジェクトや環境を高精度でデジタル化するために使用されます。
デジタルツイン内で現実世界を正確に再現し、より信頼性の高いシミュレーションや分析を可能にする技術です。
AR/VR(拡張現実/仮想現実)
AR/VR技術は、デジタルツインを用いた製品の設計やシミュレーションに役立ちます。
例えばARを利用して物理空間上にデジタルツインを重ね合わせて表示すれば、効率的な作業手順や最適な設備配置を検討できます。AR/VR技術の活用により、物理空間と仮想空間の連携が一層スムーズになるでしょう。
AI(人工知能)
AIは、デジタルツインから得られる膨大なデータを解析し、パターンやトレンドを特定します。これにより、将来の設備の故障や劣化などの予測が可能となり、予防保全や最適なメンテナンス計画の立案ができます。
またAIは、デジタルツインにおけるシミュレーションや仮想試作をサポートし、製品やプロセスの最適化にも貢献します。
CAE(Computer-Aided Engineering)
CAEは、デジタルツイン上でのシミュレーションや解析において重要な役割を担います。
製品やシステムの物理的挙動や性能をコンピュータ上で評価することで、物理空間上での試作やテストが大幅に削減されるため、設計や開発コストの節減に繋がります。
デジタルツインのメリット
デジタルツインがもたらす主なメリットは以下の通りです。
品質向上
デジタルツインを活用すると、製品やプロセスの設計段階から高精度なシミュレーションが可能なため、問題点を事前に特定できます。
それにより、製造過程での不具合や欠陥を予防し、最適な設計や改善点を効率的に見つけ出すことで、製品の品質向上が実現されます。
リードタイムの短縮
仮想空間上でシミュレーションが行えるため、検証ごとの準備などにかかる時間や手間が省けます。
また、物理空間でのシミュレーションとそん色のない精度の高さを実現できれば、設計や生産プロセスにおける手戻りや廃棄が発生するリスクも減り、リードタイムが短縮できるでしょう。
コスト削減
デジタルツインを利用して運用やメンテナンスの効率化を実現すれば、材料やエネルギーロスが削減されるため、全体的なコストの削減効果も期待できます。
仮想空間上でシミュレーションを行うことにより、現実での試作品や試験機の製作コストも削減できます。
設備保全
デジタルツインを活用することで、設備の状況をリアルタイムに把握した予測メンテナンスが可能です。
効率的な設備保全は設備の寿命を延ばし、ダウンタイムの削減にも寄与します。
リスク低減
デジタルツインによるシミュレーションでリスク要因を事前に特定することで、リスクの低減も図られます。
また、データを元にした意思決定により、企業の運営リスクも軽減される可能性があるでしょう。
環境負荷の低減
デジタルツインを活用してエネルギー消費や廃棄物を削減すれば、企業の環境負荷を低減することに繋がり、持続可能な経営を実現する可能性も高められます。
デジタルツインのデメリット・課題
デジタルツインには多くのメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットや課題も存在します。
初期投資の高さ
デジタルツインの導入には、IoTデバイスやセンサー、通信インフラ、クラウドコンピューティング、ソフトウェアなど、多くの要素が関わっています。これらの導入や設定には初期投資が必要であり、そのコストがハードルとなることがあります。
デジタルツインを導入する際は、初期費用と将来の利益を慎重に検討する必要があります。
技術的な複雑さ
デジタルツインを実現するためには、IoT、AI、5G、AR/VRといった多様な技術やシステムを組み合わせる必要があります。
これらを効果的に統合し、運用するためには、専門知識やスキルが求められます。
データの質と精度
デジタルツインの有用性は、収集したデータの質と精度に大きく依存します。
不正確なデータが反映されると誤った判断や予測が行われる可能性が高まるため、センサーの設置やデータの前処理、ノイズの除去など、データ品質を向上させるための工夫が求められます。
セキュリティリスク
デジタルツインは現実世界とデジタル世界を繋ぐ技術であり、大量のデータをリアルタイムでやり取りする必要があるため、セキュリティリスクが増加します。
データの漏洩や不正アクセス、サイバー攻撃に対する適切な対策が必要です。
プライバシーの保護
デジタルツインは、個人情報や機密情報を含むデータを扱うことがあります。
これらの情報の取り扱いに関して、適切なプライバシー保護策や法的規制に準拠することが重要です。
標準化の欠如
デジタルツインに関する標準化はまだ十分に進んでいません。
異なるベンダーやプラットフォーム間の互換性の低さやデータ交換が困難であることが、導入や運用の障壁となることがあります。
デジタルツインの活用事例
ここからは、デジタルツインを実際に導入した企業や組織、都市の事例をご紹介します。
製造プロセスにおけるデジタルツインの活用事例
BMWとNVIDIAは協同して、自動車工場をデジタルツイン化しました。
BMWのグローバルチームが工場を設計したり再構成したりする際に、 3D上で検討することを可能にします。
NVIDIAのYouTubeチャンネルでは、デジタルツインのデモンストレーション動画も公開されています。
参考:
NVIDIA と BMW、現実世界と仮想世界が融合された未来の工場を実演|NVIDIA
NVIDIA Omniverse – Designing, Optimizing and Operating the Factory of the Future|YouTube
ガスタービンや航空機エンジンのデジタルツインを開発し、性能最適化や予測メンテナンスに活用しています。
GEソフトウェアリサーチ担当副社長のコリン・パリスは、デジタルツインがもたらす効果について、次の例を挙げています。
「たとえば通常24~36ヵ月ごとにオーバーホールされるジェットエンジンは、デジタル・ツインのデータによれば、38ヵ月後までそれを必要としないことが解ります。米空軍も同様のアプローチを取り入れています」
参考:
ABB ロボティクスは、デジタルツイン技術を活用したピッキング用ロボットソフトウェア「PickMaster Twin」を提供しています。
ソフトウェアを利用することで、物理的なラインを実際に構築する前に、仮想生産ライン上でロボット構成をテストできます。
さらに、同社の製造するロボットと連携すれば、テストしたロボット構成を生産オペレーションに直接接続することが可能です。
参考:
都市開発計画におけるデジタルツインの活用事例
日本国内では、日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を進めるプロジェクト「PLATEAU」を国土交通省が主導しています。
また東京都では、2030年までに都市のデジタルツイン化実現を目指す「デジタルツイン実現プロジェクト」が始まっています。
参考:
PLATEAU [プラトー] | 国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト|国土交通省
シンガポールの国土庁(SLA)は、「One Map 3D」というプラットフォームを開発しました。
このプラットフォームでは、道路や建物の地理空間情報、土地の所有権、最寄りの学校、その場所や周辺の人口統計データなどが提供されています。
さらに、ドローンの飛行経路プランニングやバス停の待ち時間などを可視化する機能も取り入れられています。
参考:
イギリスでは、地下インフラの所有者が、地下資産データをユーザー(通信、電力、ガス、上下水道、自治体など)と安全に共有できるように、地理空間委員会が「NUAR(National Underground Asset Register)」を開発しています。
このプラットフォームの目的は、地下掘削の計画や実施に必要な地図情報・データを提供し、円滑なインフラ整備を促進することです。
参考:
フィンランドでは、民間におけるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用を背景として、政府主導の都市デジタル化プロジェクトが展開されています。
特にヘルシンキ市では、カラサタマ地区において3D都市モデルの構築、ビューアの作成・公開、およびオープンデータ化が進められています。
さらに、風環境、日照量、建物の影などを分析する機能を備えたシミュレーションプラットフォームも開発されています。
参考:
オーストラリアでは、ビクトリア州の環境・土地・水・計画省(DELWP)が、州内20の地方都市を網羅する高精度な3D都市モデルをオープンデータとして提供しており、道路の見通しや建物の影の影響などを分析することが可能です。
また、ニューサウスウェールズ州では、市内のバス停や遊具などの様々な造形物、燃料価格や電気自動車充電スペースの電力量などをリアルタイムに可視化しています。
参考:
3D buildings data of major Victorian regional centres now available|Government of Victoria
韓国のソウル市では、市全体の3Dマップを作成し、工事情報や交通情報などのオーバーレイ機能やストリートビュー機能を備えたビューアを開発しています。
風向きや火災の拡大シミュレーション結果を視覚化して、ヒートアイランド現象への対策などに活用されています。
参考:
インフラ設備におけるデジタルツインの活用事例
スイス・日立エナジーでは、送配電のための設備をデジタルツインを活用して管理・運用しています。
電力網などの設備資産のデジタルツインを作成し、送電・配電網の運用状況をリアルタイムで監視することで、効率的なエネルギー管理や障害対応が可能です。
参考:
東芝は、送配電事業者の設備構築と運用上の問題を解決する目的で、電力流通設備と運用状況をサイバー空間でモデル化したデジタルツインを作成しました。
これにより、電力設備の異常兆候や故障リスクを可視化するだけでなく、気象情報など周辺情報を考慮した高度なシミュレーションも実施できます。
参考:
富士通では、台湾の国営ダムをデジタルツイン化しました。
ダムに貯まる水のデータや、大気の状態のデータなどをデジタルツイン上で再現することで、従来のダム監視システムよりも状況をわかりやすく可視化することに成功しています。
参考:
建設業界におけるデジタルツインの活用事例
BIMによる建築物の3Dモデルに、建設現場周辺の地形やクレーンの位置といった施工現場の状況をリアルタイムに反映する「4D施工管理システム」を開発しました。
同システムは、日ハム新球場建設において実証実験が行われています。
参考:
鹿島建設は、建物の企画・設計から施工、維持管理・運営に至るまでの情報をBIMを用いてデジタル化し、デジタルツインを推進しています。
オービック御堂筋ビル新築工事をBIM推進モデルプロジェクトとして位置づけ、同工事において、建物データの各フェーズ間を連携するデジタルツインがBIMを通じて実現されました。
参考:
実験棟での増改築工事の工数を減らすために、メタバースを利用してバーチャル空間でシミュレーションができるようにしました。
バーチャル空間での検討では素材を一切使用しないため、SDGsの推進にも繋がるとしています。
参考:
医療領域におけるデジタルツインの活用事例
PwC独自のデジタルツイン技術である「Bodylogical」を開発しました。
デジタルツインを個人や人体に適用することで、今後の健康状況の予測、治療方法や健康管理シナリオの検討などができるようになります。
参考:
コニカミノルタでは、デジタルツイン技術を用いて、患者の内臓や血管の3Dモデルを作成し、内視鏡を用いた脊椎の切削手術を仮想空間でシミュレーションできる「Plissimo XV」を提供しています。
CTやMRIなどの医療画像を読み込み、患者の3Dモデルを構築します。
参考:
ヘルスケアにおけるデジタルツインの利活用とは?|Healthtech DB
デジタルツインを病院全体に導入した事例です。医療業務やセキュリティ、消防やエネルギー消費といった状況が可視化され、各部門の連携を向上させています。
さらに、放射線科ではデジタルツインやモニタリングを活用し、CTやMRIの稼働状況やメンテナンス、消耗品使用、患者待ち行列の把握、リソース配分、検査優先順位の決定、患者転倒防止や危険状況の監視、関連スタッフへの警告情報送信などが実現可能とのことです。
参考:
まとめ
デジタルツインは、企業の業務効率化やコスト削減、製品開発の最適化を実現する革新的なソリューションです。メリットも多くある一方で、デメリットや課題が存在します。
デメリットや課題を理解し、適切に対処することで、デジタルツインの導入による効果を最大限に引き出すことができます。デジタルツインの導入を検討する際には、これらのポイントを踏まえた計画や運用を行うことが重要です。
デジタルツイン導入をご検討の企業担当者様、ぜひお気軽にお声がけください。ビジネスの効率化やイノベーションの実現に向けて、一緒に取り組んでいきましょう。お問い合わせを心よりお待ちしております。
2023年5月10日