この記事では、物流におけるAIの活用状況や、物流業界の抱える課題と解決策について、国土交通省作成の資料などを踏まえて解説します。
事例を紹介する前に、まずは物流業界の抱える課題と解決策について解説します。物流業界の抱える課題としては、次のものが挙げられます。
・労働力の不足
・過酷な労働環境
・手荷役作業の多さ
・待ち時間の長さ
・EC市場の成長と宅配便の増加
・小口多頻度化
・積載効率の低下
・社会インフラとしての役割
ひとつずつ見ていきましょう。なお本項作成においては、国土交通省の資料「物流を取り巻く動向と物流施策の現状について」を参考にしています。
運輸業界は約38兆円の産業であり、そのうち物流業界は約24兆円を占める一大産業となっています(2017年時点)が、全産業平均と比較すると、次の課題を抱えていることが分かります。
日本の人口は2065年に9000万人程度となり、総人口の約40%が65歳以上になる見通しです。そんななか、トラック運転手の高齢化は全産業平均以上のペースで進んでおり、全職業平均より3~17歳高い結果となっています。
ドライバーの約4割が50歳以上というデータもあり、現在の高齢層の退職などを契機に労働力不足が深刻化することが懸念されています。
なお、「トラック運送業界の景況感|全日本トラック協会」によれば、約7割の企業がすでにトラック運転手が不足していると回答しています。
参考:
物流業界の労働力不足の一因として、女性比率の少なさも問題視されます。物流業界の女性比率は、全職業平均の1割未満と非常に低い現状です。
理由のひとつとして、倉庫内業務に高齢層や女性には難しい力仕事が多いことなどが挙げられます。
物流需要はEC市場の拡大などの影響を受けて拡大し続けており、宅配便の取り扱い個数は2018年までの5年間で約18%増加しています。それまでも小口多頻度化の傾向はありましたが、さらに拍車をかけたのが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けての外出自粛です。
物流リソースを最大限に有効活用しなければ、今後さらに増え続ける物流需要に応えられなくなることが予想されます。
物流業界の有効求人倍率は、全職業平均の2~3倍となっており、労働力不足が年々深刻化していることがデータからもわかります。その要因のひとつが、過酷な労働環境です。
トラック運転手の労働時間は、全職業平均より12~24%長く、所定外労働時間は全職業平均の約2~3倍の長さとなっています。
長い労働時間にも関わらず、年間賃金が全産業平均と比較して7~28%低い点から、過酷さに見合っていない状況が見て取れます。
有効求人倍率からは売り手市場であることが明らかですが、それにもかかわらず賃金が低いことから、根深い問題と言えるでしょう。
物流業界の過酷さを示す指標のひとつとして、トラック運転中の事故割合が挙げられます。
全日本トラック協会の資料によれば、トラック運転手の事故件数における追突事故の割合は52.9%と半数以上を占めているとのことです。
参考:事業用貨物自動車の交通事故の傾向と事故事例(PDF)|公益社団法人 全日本トラック協会
事故の危険があるのは、トラックの運転中ばかりではありません。倉庫内業務、特にフォークリフトの運転による事故も発生しています。
具体的には、フォークリフト自体の危険運転、接触事故、挟まれ事故、荷崩れ事故、車体の転倒、パレットの転落などです。
物流にかかわる業務では、運搬する物の大きさや材質が定まらないこともあり、まだまだ手積み手降ろしといった手荷役作業が多いことも課題のひとつとして挙げられます。
特に大型の貨物では、フォークリフトやトップリフター、クレーン車などの機材を使用して行う荷役作業と、手積み手降ろしといった手荷役作業が混在している場合もあり、事故につながる危険な業務でもあります。
出荷量が直前まで確定しないことや、市場や物流センターでの荷降ろしタイミングが集中しやすいことから、トラック運転手は待ち時間が長くなります。全産業平均に比べて労働時間が長くなっている要因のひとつです。
EC市場の成長と、それに伴う宅配便の増加が、労働力不足や過酷な労働環境に拍車をかけています。
EC市場は、2018年には全体で18兆円規模、物販系分野で9.3兆円規模まで拡大。EC市場の規模拡大に伴って、宅配便の取扱件数は5年間で約6.7億個(+18%)増加しています。
宅配便の取扱件数増加にともない、さらなる長時間労働の要因のひとつとなっているのが再配達依頼です。当初、再配達依頼は全体の約15~16%発生していました。2020年4月期の調査では、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛要請などの影響から8.5%まで下落したものの、以前として全体の1割近くの再配達が発生している状況です。
物流業界の労働力不足が懸念されるなか、今後もEC市場の拡大が見込まれることから、再配達の削減は必須課題のひとつと言えるでしょう。
EC市場の拡大に伴って発生するもうひとつの課題が、宅配便の小口多頻度化です。
貨物1流動当たりの重量は平均で1トン未満、0.1トン未満の貨物輸送量が割合・件数ともに増加しており、明らかに小口多頻度化しています。
小口多頻度化すると、トラック1台あたりの積載効率が低下するため、リソースを有効に活用できなくなってしまうのです。実際に営業用トラックの積載効率は年々減少しており、直近の調査では約40%まで低下したことが示されています。
労働力不足や過酷な労働環境など、非常に厳しい状況にある一方で、物流産業には社会インフラとして強靭なサービスを提供するという役割もあります。
強靭なサービスとは具体的には、災害時や新型コロナウイルスのような感染症が拡大する状況においても、十分に機能することが求められるということです。
長時間労働が発生している一方で、年間賃金が低いという事実から、物流産業全体の労働生産性の低さが垣間見えます。
2015~2017年度の2年で13.1%上昇し、全産業を上回る伸びを見せているものの、全産業の絶対値と比べると大きく届いていません。2017年度の全産業の労働生産性が3602円/人・時間であるのに対し、物流業界は2263円/人・時間と、わずか6割程度に留まっています。
物流業界の抱える課題に対して、AIを始めとする技術を活用することで、具体的にどのような解決が図れるのかを解説します。
・トラックの隊列走行
・危険運転の予測、検知
・入出荷作業の自動化
・配達時間の通知
・需要予測
・OCR(光学文字認識)
トラック隊列走行とは、トラックを車車間通信という電子連結技術で制御して、複数のトラックで隊列を構成して走行する技術です。トラック運転手の負担を軽減するとともに、衝突事故を防止して安全性を向上するほか、運転を最適化することで運行効率の向上などが期待されます。
参考:
エッジAIを搭載したカメラによって、運転手の眠気・わき見・スマートフォンの使用といった危険状態を検知したり、加速度センサを設置して急な減速やハンドリングといった危険運転を検知したりすることで、過労による事故防止につながります。
危険運転の検知は、トラックの運転中に限った話ではありません。フォークリフトの危険運転を検知することで、倉庫内の事故防止にも効果が期待できます。
参考:
AIやIoTを活用すれば、入出荷作業の大部分を自動化することも可能です。
画像認識により検品され、利用者の注文に沿ってロボットアームがピッキングし、荷の量から箱のサイズを予測し段ボールを自動で組み立て、内容物の高さを測定して自動梱包を行うことで、注文から出荷までの業務を省人化かつ省力化します。
入出荷作業の自動化は、同時に流通業務の総合化の推進にもつながります。
複数の事業者間で連携して共通の施設を利用すれば、細かい施設間の貨物移動が減少し積載効率も向上、トラックの走行台数・走行距離が減ることで地球温暖化問題への貢献も実現します。
入出荷作業の自動化は、再配達の回避にもつながります。
入出荷作業が自動化されると、作業記録のデータ化が捗ります。作業記録がリアルタイムでデータ化されるようになると、出荷のタイミング、さらには配送のタイミングが予測できるようになります。
配送のタイミングがわかれば、到着予定時刻を利用者の端末に通知することができます。実際に配達時間を通知することで再配達を削減した事例もあります。
AI活用による需要予測は、大きく2つの効果をもたらします。1つは人員の最適化、もう1つは在庫の最適化です。
物流業界の抱える課題として「労働力不足」が叫ばれる一方で、倉庫業務の人員配置が最適化しづらいという問題がありました。さまざまな要因が絡むことから、シフトを考える担当者の技量や熟練度に依存する部分が大きく、新人担当者とベテラン担当者では人員配置表を作成する時間もその効率も差があるといいます。
これに対し、AIが需要を予測して最適な人員配置を提案することで、新人担当者でもベテラン担当者に近い効率の人員配置を作成できるのです。
また、労働力不足に拍車をかける要因の1つとして、過剰な在庫も問題となっています。物流は社会インフラとしての役割上、可能な限り在庫を切らさないようコントロールする必要がありますが、在庫切れを回避するためにはある程度過剰な在庫を抱えざるを得ないのです。
これに対しても同様に、AIが需要を予測して適切に在庫をコントロールすることで、過剰な在庫を管理する人員やスペースが不要になります。
OCR(光学文字認識)は、手軽に取り入れやすい効率化の手段のひとつと言えるでしょう。
書類をスキャナやカメラで取り込み、デジタルデータとして処理することで、事務作業が効率化します。
ここからは、物流業界のAI活用事例をご紹介します。
ネット通販最大手のAmazonは、2020年に4つの新物流拠点を東京・埼玉に新設しました。
Amazonの倉庫では、AmazonRoboticsと呼ばれるシステムを導入しており、庫内では棚を動かすロボット「Drive」と、Driveの動かす棚が縦横無尽に行き交います。Driveは、床に貼られた無数のQRコードによって制御されます。
従来の倉庫と異なり、人が商品を取りに行くのではなく、棚が人のもとへ自動的に来ることで手間を削減。指定の商品が棚のどの位置にあるかを、ライトアップしてサポートする機能も搭載されています。
なお新型コロナウイルスの影響下に新設された物流拠点内には、2mのソーシャルディスタンスを保つ工夫が随所に施され、2mの距離を保っていない人を検知するカメラも導入されています。
参考:
テレビ神奈川 tvk3ch「LOVEかわさき 11月23日放送 潜入シリーズ!~アマゾン川崎フルフィルメントセンター編~」|YouTube
セブンイレブンジャパンは、約1100店舗にAI発注システムを試験的に導入しました。
販売実績・共通催事・キャンペーン・天気予報と実際の天候などの合計13の要素から、最適な発注数をAIが提案します。なお、AIはあくまで発注数を提案するのみで、最終的な発注数の確定は従来通り発注担当者が行います。
この仕様は、FC加盟店が大半を占めるコンビニならではと言えます。発注権限が本社ではなく加盟店オーナーにあるため、直営店が基本となるスーパーマーケットなどとは異なり、自動発注でなく発注数の提案にとどめたとのこと。
セブンイレブンの発注システムにもともと発注を促す仕組みはあったものの、このシステムを利用するには基準となる在庫の設定が必要でした。それに対し、AI発注システムなら基準在庫を設定する手間がいらず、さらなる発注業務省力化につながることが期待されます。
参考:
アスクルでは、創業当時から顧客のために進化することを経営理念として掲げ、社名の通り「明日来る」を実現するために数々の物流改革を推し進めています。
2016年12月には、配送センターで初となるピッキングロボットの稼働を開始。3Dカメラの撮影画像を高速解析し、商品の数や形状などを認識して注文品を配達先ごとに正確に仕分けます。
注文から、棚だし、ピッキング、段ボール組立、梱包、出荷までの作業を自動化することにより、注文から出荷までの時間は最短20分に。ロボットの導入で省人化と24時間稼働を目指します。
また、出荷後の配送ルートもAIがリアルタイムで管理・サポート。天候・道路状況など配送遅延につながるデータを蓄積して、AIが最適なルートを提案します。また、最適化されたルートをもとに、到着予定時刻を30分単位で利用者に通知することで、再配達の発生を抑止。
宅配業界の一般的な再配達率が20%前後であるのに対し、アスクルのサービスでは3%前後とのことです。
参考:
中部興産では、設備投資による生産性の向上を目指し、IHI物流産業システム協力のもと、岐阜県可児チルド物流センターに入出荷作業を自動化するための設備を導入しました。
従来、過剰な在庫の一時的な保管場所として利用していたストックヤードを、IHIのシャトル&サーバへ移行することで、次の無駄を削減。
・過剰在庫の仮格納作業の撤廃
・一時仕訳のためのストックエリアの撤去
・一時仕訳に従事していた作業人員の削減
そのほかにも、パレット自動倉庫・背面ピックステーション・オリコン自動段積機などを導入しています。
オリコン自動段積機は、シャトル&サーバから出庫されたオリコンをセンターや店舗別に自動的に段積みする設備で、それまで男性に集中していた重労働を女性・高齢者でも可能な作業にしました。
参考:
ゼロビルバンクジャパンは、トラック運転手の負荷軽減に向けて、乗務記録の自動化を提案します。
トラック運転手の減少、高齢化、長時間労働、長時間の荷待ちといった4重苦にさらされる状況のなか、トラック運転手の乗務記録の義務化に着目。
エッジAIを活用することで、積み荷の積載状況を自動的に記録し、ドライバーの負担を軽減するとともに精度を向上します。
リアルタイムで正確な積載数データが取れれば、平均積載率の向上にもつなげられるとしています。
参考:
アズワンは、東日本全体の物流を支えるため、新物流センター「スマートDC」の稼働を2020年5月に開始しました。スマートDCは、既存の東京物流センターと比較して、1.5倍の保管能力、2倍の出荷能力を誇ります。
全体の業務のうち70%がオートメーション化されており、入庫から出庫まで、随所に最先端技術が活用されています。
例えばセンター入り口では、スマートバースシステムがトラックのナンバープレートを読み取り、適切な位置まで誘導。人が商品を探したり取り出したり運んだりする必要のない、フリーサイズケース自動倉庫に、夜間に自動で補充されるパレット自動倉庫、作業者の前に自動で物が運ばれてくる定点ピック方式のトレー自動倉庫など、盛り込まれた技術は多岐にわたります。
さらにユニシャトルは、梱包材を自動で生成し、配送業者ごとに梱包するタイミングも最適化し自動で排出。AIを搭載したアーム式ロボットが、荷物ごとに判断して自動で積み上げていきます。積み上げられた荷物は、AGV(無人搬送車)がトラックのもとまで運搬します。
参考:
最先端物流センター「Smart DC」で3工程を自動化|Mujin
アズワン/最新自動化技術を駆使したスマートDC稼働(速報)|LNEWS
ASONECORPORATION「アズワン株式会社 新物流センター「スマートDC」紹介動画 ロングVer」|YouTube
名古屋大学発のテックベンチャー・オプティマインドは、「世界のラストワンマイルを最適化する」というミッションを掲げ、どの車両が、どの訪問先を、どの順で回るべきか、といった配送ルートの最適化をクラウドサービスで支援します。
これまで配送ルート最適化のシステム導入が進まなかった背景に、考慮できない制約条件、現実と乖離したルートや時間、システム買い切り価格などがあるとし、これらをクラウドによってデータを大量に集約することでクリア。
同社のサービスを日本郵便に導入した際には、次の効果が得られたといいます。
・ルート作成時間:44分→6分
・実配送時間:57分→45分
・合計:約50分の短縮
・1人当たり:144,000円/月の増益
配送ルートの最適化が特に役立つ業界として、宅配便、宅食、自販機の補充、酒販、薬品卸、LPガスなどを挙げています。
参考:
Industry Co-Creation「オプティマインドは、AIによるルート最適化で“ラストワンマイル”の物流に革命をもたらす(ICC KYOTO 2018)【動画版】」|YouTube
物流現場における人手不足を根本的に解消するため、自動走行ロボットによる配送サービスが検討されています。
国内では、セイノーHD、日本郵便、ヤマト運輸などを始めとする14社が協議会を進めている段階ですが、海外ではすでに配送ロボットを活用したサービスが開始している状況です。
自動走行ロボットによる配送サービスの構築は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐ手段としても有効で、特にラストワンマイル物流において遠隔・非対面・非接触を実現する配送サービスに期待が高まります。
参考:
大型車メーカー4社(※)は、トラック隊列走行システムの早期商業化のために協調することを発表しました。
これは政府の掲げる目標である「「2021 年までにより実用的な後続車有人隊列走行システムの商業化を目指す」の達成に向けた取り組みで、定速走行・車間距離制御装置(ACC)に車線維持支援装置(LKA)を組み合わせた技術により対応していくとのことです。
※いすゞ自動車株式会社、日野自動車株式会社、三菱ふそうトラック・バス株式会社、UDトラックス株式会社
参考:
物流業界の抱える課題と、物流でAIを活用する事例について解説しました。
AIを導入することで期待できる効果は多いですが、一方でAIを導入してもただちにコスト削減や生産性の向上が見込めるわけでない点も理解しておきましょう。
安易な導入はかえってコストの増大を招く可能性もありますので、まずは構想を練り、スモールスタートでトライアルする必要があります。
AIを導入する具体的な手順については、下記記事もご確認ください。
マクロセンドは、AI活用の前段階として必要な、データ自動収集システム、データレイク・DWH基盤構築、セルフデータプレパレーションツールの提供等、各企業の状況・要望に合わせたデータ活用、DXを支援するサービスを行っております。興味のある方は、以下のサービス記事もご確認ください。
2021年3月12日