記事後半では、チャットボットの活用事例や、チャットボット開発費用の一例などの紹介とあわせて、チャットボットを導入する際に注意したいポイントまでを解説します。 「チャットボットを導入したいけれど具体的な方法が分からない」「どのようなチャットボットを導入すればよいか分からない」という方は、ぜひ参考にしてください。
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チャットボットの概要を解説します。 チャットボット(Chatbot)とは、「チャット(chat)」と「ボット(bot)」を組み合わせた言葉で、チャットを介した質問や問いかけに対して、自動で答えを返すプログラムのことです。 たとえば、宅配便・運送業者の中には、次のような機能を備えたチャットボットを提供しているものがあります。 ・LINEで郵便物のお届け予定時刻を通知 ・受け取り日時の変更受付 ・その他お問い合わせへの対応 その他にも、企業やサービスのホームページを訪問した際に、「チャットでお問い合わせ」といったアイコンがあれば、そのホームページではチャットボットによる問い合わせ対応サービスを提供している可能性が高いと考えられます。また、LINE公式アカウントから届くサービス情報や通知も、チャットボットの機能を利用して提供されているケースが増えています。 このようにチャットボットは、簡単な問い合わせ対応に用いられるだけでなく、予定の通知、社内における文書検索、自治体の行政手続きの案内、医療現場の救急相談など、幅広く用いられています。 2017年から2018年にかけて矢野経済研究所が実施・発表した「対話型AIシステム市場に関する調査」によると、国内のチャットボット(対話型AIシステム)市場は2022年には132億円まで拡大すると予測されています。 また、ITRの発行する市場調査レポート「ITR Market View:ビジネスチャット市場2019」によれば、チャットボット市場の2018年度の売上は24億1,000万円と、前年度から倍増していることが分かります。この数値は、さきほどの矢野経済研究所の調査資料における予測値とも一致しています。 チャットボット市場が拡大する一因は、生産人口の減少による働き手の不足です。また近年推し進められている働き方改革も相まって、より少ない労働時間で多くの成果を出す労働生産性の向上に迫られています。そうした状況を打破する解決策のひとつとして、チャットボットが注目されているのです。 参考: 対話型AIシステム市場に関する調査を実施(2018年) | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所 ビジネスチャット市場2019|ITR Market View チャットボットは、人工知能(AI)の搭載有無によって、大きく2種類に分けることができます。 AIを搭載していないチャットボットは、「シナリオ型」「ルールベース型」などと呼ばれます。 AI非搭載のチャットボットは、目的に沿ってシナリオ(フローチャート)を構築し、ユーザーに選択肢を提示します。ユーザーは、自分にマッチする選択肢を選んでいくだけで、目的の情報に辿り着けるという仕組みです。 シナリオ型やルールベース型のチャットボットを導入する際は、ユーザーの抱える課題や行動をあらかじめ想定する必要があるものの、比較的設定が容易で気軽に導入しやすいタイプと言えます。 一方で、シナリオ内で想定されていない回答はできないため、より汎用性の高い複雑なチャットボットを実装したい場合は、AIを搭載したチャットボットを検討したほうが良いでしょう。 AIを搭載したチャットボットは、あらかじめ用意したデータや、ユーザーの利用履歴をもとに機械学習を行うことで、ユーザーの自由形式の問い合わせに対して、統計的に適切な回答を提示します。 想定される質問(問い合わせ内容)をあらかじめ検討し、それらに対する答えを事前に用意するという大枠の考え方は、AI非搭載のチャットボットと大きく変わりません。 AI搭載チャットボットがシナリオ型・ルールベース型のチャットボットと大きく異なるのは、データが蓄積するのに応じてより精度の高い回答を返せるようになるため、自由形式の問い合わせや表記の揺らぎなどにも対応可能な点です。 一方でAI搭載チャットボットは、データの不足や設計の不備があれば、問い合わせ内容に対してまったく要領を得ない回答を提示してしまう可能性もはらんでいます。 この点は、選択肢の限られるシナリオ型では起こりにくい問題と言えるでしょう。 チャットボットにできること、チャットボットが実際に利用されているユースケースは主に次の通りです。 <社内利用> ・社内ヘルプデスク ・勤怠管理 ・スケジュール管理 ・設備や会議室の利用予約 ・ファイルサーバなどでの文書検索 ・営業日報の作成 <社外利用> ・問い合わせ対応 ・接客 ・販売 <企業間利用> ・資材調達 ・部品の在庫確認 まず多いのが、社内におけるヘルプデスクや、各種業務システムと連携した管理業務の簡素化といった、社内システムの利便性向上に用いられるケースです。 さらに顧客対応の現場でも、単純なFAQ形式のカスタマーサポートに留まらない範囲で利用されるケースが増えています。 チャットボットを提供するサービスの増加や、チャットボットの認知度向上もあり、AIチャットボットと有人チャットを組み合わせることで、接客から販売(決済)までチャットベースで実現するケースもあります。 加えて近年は、業種や業務に特化した製品・サービスも登場しており、企業間での利活用も進んでいます。 チャットボットを導入することで得られる主なメリットは次の通りです 複雑化したシステムの窓口をチャットボットに集約することで、システムの簡素化につながります。 社内ヘルプデスク・勤怠管理・スケジュール管理・会議室の利用予約・ファイル文書検索・日報の作成、といった社内におけるシステムが簡素化すれば、日々の業務の効率向上が見込めるでしょう。 また、問い合わせ・商品検索・店舗の利用予約・決済、といったカスタマー向けのシステムが簡素化すれば、人員を増やすことなくサービスを滑らかに提供できる可能性が高まります。 人力で対応する場合、営業時間がボトルネックとなっていたヘルプデスク・問い合わせ業務において、チャットボットを導入することで即応性が飛躍的に向上します。 チャットボットは一度導入すれば、メンテナンスの手間などをのぞいて基本的に365日24時間対応が可能なため、問い合わせの集中する時期などを考慮してヘルプデスクを増減させる手間もかかりません。 特に、コールセンター業務におけるチャットボットの有用性は広く認識されているところです。 コールセンター関連市場の調査データをまとめたデータブック「コールセンター白書2020」によれば、「今後導入予定のITソリューション」という設問に対する回答で最も多かったのがチャットボットで、29.9%とおよそ3社に1社がチャットボットの導入を検討していることがうかがえます。また同質問においては、チャット対応システムも24.2%となっており、こちらはおよそ4社に1社が導入を検討しています。 参考: 問い合わせ数の多い質問や、比較的答えやすい質問に対してFAQ形式で答えを用意することで、一部の対応の難しい問い合わせに人手を集中させることが可能になります。 これにより、人員を最小限にできるうえに、顧客満足度は向上することが見込めるでしょう。 またユーザー目線では、チャット形式という普段使い慣れたUIで問い合わせできるため、どこへ問い合わせればいいか分からない、といったストレスを抱えにくいというメリットも得られます。 社会的に在宅ワークが普及する中、コンタクトセンター業界では未対応のケースが多いとされています。 こうした社会情勢への対策としても、チャットボットは有効と言えます。チャットボットを導入する際にはまず、チャットボットで対応できる領域を明確にする必要があります。この作業は、社内に集中させるべき業務を明確にする作業でもあるため、在宅ワークで対応可能な範囲を検討することにもつながるのです。 在宅で対応できる業務と社内で対応すべき業務が明確になれば、在宅ワークへの対応も捗り、出社人数の制限などが実現する可能性が高まります。 なお、エスカレーション対応が困難で在宅ワークに切り換えられないという場合は、混雑時は音声ガイダンスでAIチャットボットに誘引し、順次有人オペレーターへエスカレーションするといったフロー構築による対策も有効です。
続いて、チャットボットの導入事例・活用事例をご紹介します。
なお今回は、導入の比較的容易なLINEチャットボットを活用した事例を中心にご紹介します。
国内配送業者大手のヤマト運輸では、顧客の利便性向上を目的として、LINEチャットボットによる配送時間の事前通知サービスなどを提供しています。 同サービスは、ヤマト運輸の無料会員制サービス「クロネコメンバーズ」に登録していないユーザーでも、ヤマト運輸のLINE公式アカウントを友達追加することで利用可能で、チャットボットの質問に受け答えする形式で配送日時等を変更することができます。 またヤマト運輸ではチャットボットサービスを公式ホームページ上でも提供しており、従来は一部地域に限定されていた提供エリアも、2020年5月から日本全国へ拡大しました。 公式ホームページのチャットボットサービスでは、集荷、受取日時・受取場所の変更、配送状況の確認、再配達依頼のほか、フリーワードによる問い合わせも24時間受け付けています。 参考: LINE「通知メッセージ」の活用で、宅急便の受け取りがますます便利に|PR TIMES チャットボットによるご依頼やお問い合わせを、日本全国どこでもご利用いただけるようにしました。 | 2020年04月 | ヤマト運輸
給湯器などの湯まわり設備を提供するノーリツは、施工業者などのビジネスユーザー向けLINE公式アカウントを2020年1月に開設しました。 ノーリツのLINE公式アカウント「お湯net」では、給湯器などの製品検索、在庫検索、アフターサポート、製品動画、カタログ、会員登録といったメニューが用意されており、LINEのトーク画面上でそれぞれの問い合わせ・確認ができます。 給湯器の機種名を入力して製品検索できるだけでなく、銘板(プレート)を撮影した画像から該当機種の候補を表示することも可能です。 機種の特定から在庫確認までがスピーディーに完了するため、現場でエンドユーザーを待たせることなく給湯器の取替提案ができます。 参考: 日々の業務をよりスピーディーに、より簡潔に解決! チャットボットを導入したLINE公式アカウントを1月開設 | ニュースリリース
兵庫県の尼崎市と丹波市では、LINE公式アカウント上でAIチャットボットを活用し、市政情報に関する問い合わせに対話形式で回答するシステム「尼崎市AI案内サービス」「丹波市AIサービス」を開発しました。 この取り組みは、社会課題の解決に役立つAIの開発、および住民サービス向上などを目的として、2018年6月18日〜2019年3月31日の間に行われたものです。実施期間以降は、「尼崎市LINE@」「丹波市LINE@」にそれぞれ統合して継続運用されています。(「丹波市AIサービス」は2021年3月31日に提供終了ののち、2021年8月頃を目途に新AIチャットボットサービスを開始予定) 実験後の利用者アンケートによれば、期間中に両市合わせて2,000人超のユーザーが本システムを利用し、半数以上が「24時間いつでもどこでも問い合わせが可能だった」ことをよかった点として挙げており、約半数が「今後も利用したい」と回答したとのことです。 また、システムの回答精度をログ分析により人手で評価したところ、76%は「回答が適切」でした。回答が不適切であったものの中には、回答として適切なFAQデータがそもそも含まれていないケースが11%あり、FAQシステムの精度向上のためには、FAQデータの拡充が主要な課題であるとしています。 参考: 「LINEを活用した社会課題解決手法の研究」 2018年度 成果報告書をまとめました|LINE <LINE を活用した社会課題解決手法の研究 2018 年度 成果報告書の概要>(PDF) LINEを活用した社会課題解決手法の研究を実施/兵庫県、尼崎市、丹波市、LINE株式会社、京都大学大学院情報学研究科と連携協定を締結|国立情報学研究所
インターネットを中心として保険を販売するライフネット生命では、LINE公式アカウントを活用して特に20~30代の若年層との顧客接点を増やすことを試みています。 ライフネット生命のLINE公式アカウント上では、チャットボットによるほけん相談が24時間提供されているほか、営業時間内ならば保険プランナーにチャットで直接問い合わせすることが可能です。 チャットボット上では、保険料の見積もり、資料請求、保険商品の詳細、申し込み方法、保険料の支払い方法、といった問い合わせの多い選択肢が用意されており、チャットボットによる解決が適した課題と、チャットボットだけでは対応の難しい課題が切り分けられた設計となっています。 参考: LINEで「チャットボット」!事例企業に学ぶ活用方法|LINE for Business ライフネット生命 LINE公式アカウント | 生命保険・医療保険のライフネット生命
最後にLINE APIを利用していないチャットボット事例として、国税庁で運用が開始された税務相談チャットボットを紹介します。 国税庁では、2021年1月中旬から、所得税の確定申告における税務相談の新たなチャネルとして、国税庁ホームページ上でチャットボット「ふたば」の運用を開始しました。 国税庁の税務相談チャットボット「ふたば」では、所得税の確定申告で問い合わせの多い下記のような質問について、24時間回答を得ることができます。 ・確定申告に必要な書類(ユーザーの所得の種類や利用する控除の種類に応じて回答) ・確定申告の必要性の判定(ユーザーの主な収入源、給与収入額などに応じて回答) ・医療費控除、住宅ローン控除、ふるさと納税など各種控除の詳細 ・状況に応じた所得税の取り扱い(保険金の受取、結婚、離婚、出産、退職など) 用意された選択肢やメニューのほかに、知りたいキーワードを自由入力して問い合わせすることも可能です。 参考:
ここまでご紹介した通り、チャットボットは活用できる幅が非常に広く、正しく導入・運用すれば企業と顧客の双方にとって大きなメリットをもたらしてくれる技術です。 ただし、どういったケースに対してどういったチャットボットを導入するかの判断を誤ると、費用対効果が見合わなくなるうえに、ユーザーの満足度を損ねる可能性がある点には注意しましょう。 たとえば、限られた業務向けの社内ヘルプデスクや、シンプルなサービスの問い合わせ対応に用いるなら、用意するFAQもそう多くないことが想定されます。その場合は、人工知能を搭載したチャットボットではなく、人工知能非搭載のシナリオ型チャットボットで対応可能でしょう。いくつかの選択肢をもとにフローチャートを設計すれば、十分にニーズを満たせる可能性があり、費用も抑えられます。 一方で、FAQ数が数百件など非常に多くなるケースでは、チャットボットではなくFAQシステムを導入したほうが利便性は向上するかもしれません。仮にチャットボットで対応するとしても、そもそも十分なFAQデータが用意されていなければ適切な回答に導くことができず、かけた費用の割に使われないサービスになってしまう可能性があります。 このように、チャットボットは実現したい処理に応じて、種類やAI搭載の有無を見極める必要があります。自社で判断することが難しい場合は、ぜひ弊社までお気軽にご相談ください。
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2021年8月19日